それは明らかな罠であった。 ディアヌス研究所に攻め入る最中、何処かへと誘導されている感覚が彼の 脳裏から離れない。 しかし、彼はそれでもいいと考えていた。 「奴は余を試す気か」 ディアヌス=ロランジュ。今現在、決着を付けんと彼等が乗り込んでいる ネスツの研究施設の責任者。そして、あの知られざる研究所を造った男。 さらにシェリル=ロランジュの話を信じるのならば、奴と自分には血の 繋がりすらあるのだろう。 縁浅からぬ仲であるが故に彼はディアヌスの挑戦から目をそらすことが できない。 あるいは、それすらもディアヌスの予想の範疇か。 思考を巡らせながらも彼は駆ける。扉の向こうから現れたKシリーズを 焼き払い。 先の扉を爆撃で吹き飛ばす。 その先には中庭が広がっていた。辺り一面から聞こえる戦闘の音。 陽動が効いたのか皆うまく立ち回っているようだ。 「む?」 中庭の先。そこには大きな施設があった。研究所からは独立した場所。 そこの扉が彼が来たのを見計らったかのように開く。 「ここが終着か。よかろう」 彼は迷うことなく扉を潜る。彼が中に入ると扉が閉まった。 どういう仕組みか、今まで扉だった場所は、すでに壁と一体化して、 再び外に出ることは叶わない。 「姿を見せろ」 そこは妙な場所であった。辺りの床には岩が敷き詰められ、淡い光を 放っている。 室内だと言うのに天井は見えず、強大な施設内には妙な空気が満ちていた。 彼は知らない。そこはかつてKOF97の決勝の際に神が降臨した場を模した ものである。 あらゆる映像解析から再現された人工の聖域には、聖なる気が満ち、 今や遅しと神の生誕を待ちわびていた。 「あなたがそうなの?」 と、その声は突然彼の背後から投げ掛けられた。 警戒していたというのに彼は声を掛けられたその時まで、声の主の気配には 気が付けなかった。そんな内心の驚きをおくびにも出さず、彼は問う。 「さぁな、貴様は何者だ?」 瞬間、巨大な紫炎が彼の周りに巻き起こる。彼はそんな炎を腕の一振りで 掻き消すと、返す腕で声の主を薙ぎ払う。 先程の紫炎に倍加する火炎が巻き起こり、爆発。 爆風が施設全体を大きく揺らした。 「そう、あなたがゾディアックなのね」 爆炎が霧散する。そんな中から現れたのは紫色の巨大な腕。 声の主を守護するかのように展開した腕は、突如跳ね上がり、 彼――ゾディアックを薙ぎ払わんと迫った。 ゾディアックは巨大な腕を危なげなく避けると、大きく距離を取る。 「私はα-イヴ。あなたを殺す者よ」 腕の中から姿を現したのは、まだほんの小さな女の子であった。 ただ、そんな彼女の瞳だけが、人ならざる妖しさを携えて静かに ゾディアックの姿を捉えている。 ゾディアックの頬を知らず、一筋の汗が伝った。 「すまん、アネル。余は合流が遅れそうだ」 ここにはいない少女へと詫びる。ゾディアックの眼前。 両腕を広げた女の子の背後から異形の巨人が顕現した。 「さぁ、終わらせましょう」 「・・・・ディアヌスめ。小賢しい爺(じじい)だ」 ゾディアックの全身から青白い紋様が浮き上がる。 同じく全身に輝く青白い紋様を浮かべて、 女の子――α-イヴはゾディアックへと襲い掛かった。 To be Continued
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