『お兄ちゃんはいつもパパと何処にお出かけしているの?』 そんな質問をしたのは果たしていつのことだっただろう。 双子の兄は死亡する前に度々父と出掛けることがあった。 一緒に行けないことが寂しくて、私はよくそんな質問を2人にしていたの である。 だというのに父も兄も一度として私の質問に答えを返してくれることは なかった。 そう、私は父と兄が何をしていたのかを未だに知らない。 そして96年のあの日。 KOF決勝戦に乱入してきた男によって、会場は大破。 瓦礫の直撃により私は両足の感覚を失い、兄は帰らぬ人となった。 父があまり家に寄り付かなくなったのもこの頃。 父は研究所に入り浸るようになり、私は父の【会社】の経営する病院で 1日のほとんどを過ごすようになった。 数年前に父の消息が分からなくなったのだが、 その頃には私の父に対する興味はほとんどなくなっていた。 代わり映えのしない毎日。 何ら希望の見出せない時間にいつしか私の感覚は麻痺してしまっていた。 途中何度か大きな手術を行うことがあったけれど、 結局私の足の感覚は戻らないまま、現在に至る。 それでも今の私にはたった一つだけ娯楽と呼べるものがあった。 それはテレビの中で繰り広げられる某格闘大会本戦の中継。 その中で躍動するアネルという名の少女。 彼女の風貌はどういうわけか、私とそっくりだった。 髪の色こそ違うが、少なくとも私には彼女が他人には思えない。 彼女は試合に勝つ度にカメラへと向かってメッセージを発信していた。 大抵は意味の分からない内容であったが、総合するとどうやら 彼女は誰かを探しているらしい。 『・・・私のこと、なのかな』 いつしか私は彼女のことばかりを考えるようになっていた。 それが無駄なこととは知りつつも、どうしても彼女に自分を重ねてしまう。 私は幼少の頃に兄と共に中国拳法を習っていた。 もし、今も私が健康なままだったとしたら彼女のような動きをすることが できたのであろうか・・・。 彼女に会ってみたい。 彼女に会って、いろんなことを話してみたかった。 それが今の私に生まれたたった一つの願い。 その気持ちは強く、大きい。 その思いはついに私に一大決心をさせる。 翌日、私は例の格闘大会決勝の行なわれている会場にいた。 To be Continued
戻る